監督インタビュー
『魔弾の王と戦姫』監督・シリーズ構成・脚本
佐藤竜雄 インタビュー

◆プロフィール
さとう たつお
アニメーション監督、演出家。他作品の脚本やシリーズ構成としても活躍。
主な代表作に、『モーレツ宇宙海賊』『機動戦艦ナデシコ』『宇宙のステルヴィア』ほか多数。

丁寧に描かれた人間同士の戦い

――まず『魔弾の王と戦姫』の印象をお聞かせください。

佐藤 しっかりした作りだな、と感じました。ライトノベルは、初めて小説に触れる人たちにも向けた易しいジャンルではありますが、この作品に関しては根っこの部分がかなり硬派という印象でした。たとえば中世の戦争は殺した人数が重要ではなく、いかに人質をとらえて身代金を奪うかという戦いなんですが、そういった時代観に基づいた背景もしっかりと物語に織り込まれているんです。交渉の材料として、貴族や騎士を捕えるというのは昔の戦争の常だったんですね。

――序盤はまさしくその展開ですね。

佐藤 ええ。ヒロインとしての戦姫や竜具(ヴィラルト)といった、いわゆるライトノベルとしての入り口は押さえてはいるのですが、題材的には一般的なライトノベルとちょっと違う。エグい部分もあれば、気高いところもあるんです。もちろん読者層を考えたら、そんなに突き放すわけにはいかないわけですが、ライトノベル的な取っつきやすさと、骨太な部分がしっかりとせめぎ合っている。その辺りをはぶいてしまうと、単なる人質になった男の子とお姫様のお話になりかねないんですね。その辺りは、きちんと描くべきだなと感じました。

――これまでのライトノベルとは、若干方向性が異なる作品でしょうか?

佐藤 僕もここ数年、ライトノベル新人賞の審査員をやっているんですが、応募作品の傾向としてオーソドックスな方向性に戻りつつある印象ですね。ちょっと前までは、異世界の主人公が現実世界にやってきて……というひねった感じの話が多かったんですけど、これから4、5年後のメインになる作品はもっとオーソドックスに、物語世界や人物を描いていく作品が増えていくかもしれません。多くの作品が、ライトノベルという枠組みに当てはまらなくなっていくでしょうね。『魔弾の王と戦姫』は、その狭間にいる作品という印象です。

――ティグルからして、これまでとは違うタイプの主人公と感じられますね。

佐藤 まず剣術使いや魔法使いの主人公は常套ですけど、弓矢は珍しいですよね。弓矢というと、どうしてもサポート役というイメージがありますから。かといって単純に弓矢で解決するような物語ではなく、弓矢がうまいだけでは戦局に大きな影響を与えることができないという側面も描かれている。作中では戦術を用いて指揮官を狙うとか、いろいろ知恵を使っていますけど、自分が先頭に立つと戦いに勝てないのを、主人公が自覚しているのは新しいですね。

――主人公がその点を一番理解しているのが面白いです。

佐藤 そんなティグルの人としての誠実さに惹かれて、戦姫たちが手を貸していくという展開ですからね。それは単なる優しさに触れたからではなく、いかに真剣に国や領民を守ろうかと向き合っているところに惹かれていくわけです。

――ティグルの立ち位置が、戦姫との関係性に大きな影響を与えていくんですね。

佐藤 わかりやすいのはティザービジュアルです。あのキャラクター配置にもメッセージ性があって、ティグルと戦姫との関係性を示しているんです。重要な点はティグルが弓矢使いであるということですね。弓を引いている間は無防備なので、絶対守ってくれる人が必要になる。そこで背中を預けられる関係になるか、向かい合う関係になるか、それ以前の関係のままなのか……。その中でも、エレンとティグルは背中を預けられる関係でしょうね。単純な恋愛関係とは違うと思うんです。

――戦姫の能力も、決して万能というわけではない点も面白い点です。

佐藤 竜具は、あくまで存在意義の副産物というイメージです。ようするに戦姫たる理由を求めて、彼女たちは常にかくあらんとしている。竜具で偉ぶることが戦姫ではないことに向き合っているわけですね。原作でもサラッと書かれているけど、なかなかわかってもらうのは大変なテーマですよね(笑)。

――戦闘描写にしても、ただ戦姫が武器をふるって戦いを終わらせるだけではない厚みを感じさせます。

佐藤 エレンは先頭に立って戦うのが好きなタイプなので、その活躍を描くことも大事ではあるんですが、一方で敵が戦姫を大人数で潰そうとする、なんてこともやっていますからね。最終的に人間対人間の戦争ではあるので、頭脳戦的な側面や作戦を畳み掛けることで厚みを持たせようとしています。力押しの描写だけでは退屈ですからね。

あらゆるアイディアを駆使して重厚な戦争シーンを描く

――本作の魅力である戦争シーンが、どのように描かれるかも注目ですね。

佐藤 僕はSFアニメをよく手掛けているのですが、戦術展開をモニターで表示することが多いんですよ。こうした戦記ものでは珍しいやり方かもしれませんが、その応用で今回はマップで作戦展開を表示するようなスタイルにします。半端なファンタジーをやるぐらいなら、様々なアイディアを取り込むことで作品世界を濃く見せたほうがいいんです。

――アニメーションで戦争を描く上での難しさは?

佐藤 そこはサテライトさんの力を活かして、CGを駆使して描きます。じっくり全部を描くというわけにはいきませんが、戦闘に至るまでの段取りや軍勢の数、陣形の見せ方やモブの厚みを取り込んで、ギュッとまとまった形で描けると思います。

――ファンタジーの中でも、戦争のシビアさを感じられるのも本作の魅力ですね。

佐藤 戦いが終わったら、敵の死体から弓矢を回収するなんて描写もやっていますからね。アニメだと武器は無尽蔵に出てくるのが普通みたいな感覚がありますけど、この作品ではちょっと違うと感じてもらえるかもしれません。なにせ主人公からして弓矢使いなので、あと何発しか使えないってわかっちゃってますからね(笑)。対策としてバートランがたくさん矢筒を持って、ティグルの後ろを走っているという。そういう描写が地味と思われるのか、理解できないと思われるかはわからないのですが、独特の雰囲気になると思います。

――ある種の枷がある作品と言えるかもしれませんね。

佐藤 枷があるからこそ面白いと思うんです。なんでもアリって、むしろつまらないじゃないですか。万能に何でも解決できちゃうなら、見ている人も予想できてつまらない。簡単に踏み越えることができないものをクリアしていくからこそ、面白くなると思うので。

――今回は佐藤監督ご自身が脚本を担当されていますが、その意図は?

佐藤 今回、僕が脚本と監督を担当しているのも、この作品の魅力をわかりやすく描くためですね。キャラクターたちが苦難に対して、どのように取り組んで乗り越えていくのか。各キャラクターたちが乗り越えていく過程も独特だったので、一人でやったほうがいいだろうと思いました。大勢でワイワイやるのも楽しいんですけどね。でも今回は話し合いながら立ち上げていくよりも、自分から「これ!」というベースになるものを提示してから、みんなで叩いていったほうが面白いと感じました。

――そのやり方には、どのようなメリットがあるのでしょうか?

佐藤 たとえばコンテ段階でセリフの取捨選択をするわけですが、自分が脚本を書いている分、早く決断できるんです。このやり方が決して楽というわけではないんですけどね(笑)。今回は世界観が特殊なファンタジー作品ですし、そこは作画に時間を割いてあげたいという部分もありますね。

――アニメ版のキャラクターデザインに関して意識されたことは?

佐藤 原作以外にもコミカライズからファンになった方も多いと思うので、そのあたりのアプローチは気を使っていますね。とはいえイラストや漫画の絵は、巻数を重ねるごとに微妙に変わってくるものです。スパンの長い小説や漫画という媒体なら変化も受け入れてもらえると思うのですが、短期間で一気に流すアニメでは「こういうキャラクターです!」と明確に主張させなければなりません。そこで絵柄に左右されない部分として、キャラクターの性格を強調する方向性で進めています。

――各キャラクターを描く上で、どのような部分がポイントになりますか?

佐藤 特にティグルの誠実そうな顔は重要ですね。基本的に彼が悩み、考える物語ですので。一方で戦姫たちに関しては、彼女たちのプライドをどのように表情に落とし込んでいくかがポイントになるでしょう。

――戦姫たちのバックグラウンドが影響を与えそうですね。

佐藤 戦姫たちは、それぞれのプライドの持ち方が違いますから。典型的なのはエレンとミラでしょうね。戦姫は竜具に選ばれるものなんですけど、平民だろうと姫様だろうと、選ばれたら統治者にならなければならないわけです。エレンは元傭兵で、言ってしまえば平民だったんですけど、戦姫になって統治者になるという高い壁に敢然と立ち向かっていく。エレンには、そういうプライドがあるんですよね。それに対してミラは、代々戦姫であるという家柄です。三代に渡って竜具を受け継いでいるというミラのプライドも、エレンとは違うベクトルのプライドなんです。それぞれのプライドの持ち方が、戦姫を描く上での面白さになるでしょうね。

――キャスティングについては、どのようなイメージをお持ちでしたか?

佐藤 最初に決めたのはエレンですね。たくさんの候補がいたんですが、最終的に戸松(遥)さんの声が一番エレンのイメージに近いと感じました。エレンは粗野な傭兵上がりですし、もう少し強い声質のキャストという選択肢もあったかもしれません。ですが、そこは若くして国を治めなければいけないというプレッシャーを必死で押し殺しつつ、自分の強さを押し出していく若さを重視しました。オーディションの時の、凜としながらも時折見せる虚勢を張っているような芝居が、エレンに通じるものがあると感じたんです。

――他のキャスティングはどのように決められましたか?

佐藤 戸松さんの声を中心に据えて、ティグルやそのほかのキャスティングを決めていった感じですね。キャラクター単体で決めるというよりは、「戸松さんのエレンと会話をするティグルはどんな声だろう……、石川(界人)くんかな?」という感じで。キャラクターの関係性で、キャスティングを決めていった感じです。

――なるほど。キャラクター同士の組み合わせからイメージされたんですね。

佐藤 そうですね。たとえばエレンが戸松さんなら、ティッタはもう少し年齢が上でもいいかもしれないということで、上坂(すみれ)さんがいいんじゃないかと。ティッタを単体で考えるなら、もう少し幼い声でもよかったと思うんですけどね。割とエレンとやり合うシチュエーションもあるので、その時に子ども(ティッタ)がお姉さん(エレン)に文句を言うような芝居はちょっと違うなと。それならある程度、年齢感を上げてもいいかなと思ったんです。お互い言葉を交わしたときの会話のイメージを主眼に置いていますね。

――最後に、放送を楽しみにしているファンの方にメッセージをお願いします。

佐藤 戦姫たちの絢爛豪華な竜具と竜技も見どころではありますが、やはり中心にいるのはティグルですね。自分の目線だけで日々を過ごしていた少年が、より大きな世界に出て行って……。そこで飛び出していくのかと思いきや、より広い世界を見ながらも、なおかつ自分の愛する土地をいかに豊かにするかということに目覚めていく。なかなか骨太な物語ですので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。